日本高齢者虐待防止センター電話相談

2011年7月3日日曜日

日本高齢者虐待防止センター  ニューズレター No16

JCPEA(日本高齢者虐待防止センター)ニューズレター 2011年7月号

認知症高齢者の介護と「虐待」

佐藤美和子

高齢者虐待の被虐待者には、要介護者、認知症高齢者が多いことはよく知られている。
認知症高齢者への「虐待」対応の難しさとして、ご本人が虐待されていることを認識し、助けを求めることができるかどうか、またご本人の発言をそのまま事実として周囲が理解してよいかという、問題がある。また、認知症高齢者自身に、介護拒否や介護者に対する攻撃行動、妄想などの心理・行動症状などが見られ、介護者から一方的に虐待行為がなされていると判断できない場合もある。

 認知症高齢者の立場に立った場合、自分の行動に対する介入の多くが、自分の思うように動きたい、生活したいという欲求への制限である。周囲の状況が分からない方にとって、「お風呂ですよ」という声かけも理解できず、突然服を脱がされ、お湯をかけられる恐怖は、「虐待」に他ならないかもしれない。自分は昔どおりのことを行っているつもりなのに、家族から「それは違う」「何やっているんだ」と叱責され、「しつけ」とばかりに子どものように指導される心痛はいかばかりだろう。

逆に、介護者の立場に立った場合、認知症を患った高齢者の行動は、安定した生活や健康を害するものであったり、危険であったりして介入をせざるを得ない。「あなたのために」支援しているにもかかわらず、理解してもらえない、介護を拒否する、言う事を聞かない、泥棒扱いされる、攻撃される、といった経験が続くと、介護者は心身ともに疲弊してしまう。怒りや報復の気持ちが沸き起こってしまうこともあるだろう。これは家族介護者だけでなく、施設で働く介護専門職でも同様である。逆に介護者が怪我をするなど被害を受ける場合も多く報告されている。

介護拒否の強い認知症高齢者に対しては、介護すると「心理的・身体的虐待」となり、介護しないと「ネグレクト」になる、というジレンマを感じている介護者も多いと思われる。また、自分の身の安全も確保しなくてはならないという課題も抱えている。

この問題を解決するには、認知症高齢者の生命と身体の安全、健康を守りつつ、身体的・心理的負担を与えないような介護技術が必要であるが、まだ発展途上であるといえるだろう。介護のプロであっても、個々に試行錯誤しながら工夫しているのが現状である。実は、「家庭における養護者の虐待があるから、分離して高齢者施設に入所させればすべて解決」とはいえず、新たに施設においても継続する可能性もゼロではないのである。

認知症高齢者がどのような気持ちで行動し生活しているのか、何故介護拒否が起きるのかなど心理面での理解と、高齢者も介護者も負担の少ない介護方法の開発と普及が早急に望まれる。