日本高齢者虐待防止センター電話相談

2010年10月7日木曜日

日本高齢者虐待防止センターニューズレター No.13

日本高齢者虐待防止センター  ニューズレター No13 (2010/10/2)

すっかり秋めいてきましたが、皆さま、お変わりありませんか?

この夏は熱中症も大きな心配事でしたが、所在不明高齢者の問題もいろいろなことを考えさせられる出来事でした。

New Informationでは、この問題を萩原さんが論じています。今回は、<その他>にこの問題に関する記事をたくさん入れました。

<エッセイ>は、岡野さんと小川さんにお書きいただきました。
(AS)

No13の目次は以下のとおりです。

<エッセイ> 2本

<New Information> 1本

<家庭内虐待> 記事 15本

<施設虐待> 記事 1本 

<その他> 記事 30本

<お知らせ> なし

情報の多くは、「市民福祉情報」よりいただいています。
本メールの配信をご希望されない方は、その旨、お知らせください。
無断転載はお断りいたします。

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<エッセイ>

「人生捨てたもんじゃない!」 岡野 美由紀(公務員)

「施設入居者の傷ついた心と身体を最後まで守るのは誰か(1)」小川孔美 (埼玉県立大学)

<New Information> 

~ NEW 社会保障・社会福祉情報 ~

「長生き時代を生きるための社会と個人の覚悟-高齢者の所在不明問題を考える」 萩原清子(関東学院大学)

<家庭内虐待>

1 虐待気づくも市は保護せず 寝屋川転落死 Asahi.com 2010年8月27日

2 大阪・岸和田の「83歳」白骨遺体:不明の三男、5年以上介護放棄か毎日新聞 2010年9月4日 大阪夕刊

3 大阪・岸和田で民家に「83歳」白骨、年金全額引き出し 同居の三男が所在不明  (2010年9月4日  読売新聞)

4 83歳女性、胸刺され死亡=同居長女から事情聴く-茨城県警  時事ドットコム(2010/09/04-17:49)

5 80歳母放置、次男を起訴 津地検(2010年9月3日  読売新聞)

6 函館の認知症妻傷害致死:夫に懲役5年求刑--函館地裁公判 /北海道毎日JP 9月3日

7 高齢者虐待50件増270件 09年度防止法浸透で顕在化  (2010年9月3日  読売新聞)

8 府内の家庭内高齢者虐待、09年度2年ぶり増加 京都新聞【  2010年09月07日

9 愛媛県内の高齢者虐待231件、3年連続増…09年度(2010年9月10日 読売新聞)

10 「介護に疲れた」…死亡の老夫婦は心中 玉名署   くまにちコム2010年09月08日

11大牟田の夫殺害:事件前に長女が市に相談 市議会教育厚生委で報告 /福岡毎日新聞 2010年9月9日 地方版

12 認知症87歳父 暴行し死なす 傷害容疑で長男逮捕 (2010年9月14日  読売新聞)

13 豊川白骨遺体 「母は昨年5月に死亡」姉妹供述 葬式の煩わしさ動機か (2010年9月19日  読売新聞)

14 高齢者虐待被害216人  09年度 高止まり(2010年9月16日  読売新聞)

15 高齢者を経済的虐待倍増預金無断引き出し年金満額渡さず (2010年9月25日  読売新聞)

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<施設虐待>

1 高齢者虐待:氷川町の老人ホームに県が改善命令 /熊本 毎日新聞 2010年9月3日

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<その他>

1 孤立のおそれある高齢者の支援を介護保険で 首相指示 asahi.com2010年8月29日23時

2 後期高齢者の医療情報使い所在確認―厚労相  CBニュース(キャリアブレイン)      (2010/08/30 )

3 首相指示受け、独居高齢者支援の検討に着手-山井政務官  CBニュース(キャリアブレイン)(2010/08/30 22:27)

4 地域包括センター、直営化やケアマネへの委譲など――傍聴レポ2 CARE MANAGEMENT on-line

5 厚労省、在宅サービスの創設提案   Silver-.news.com (2010/08/27)

6 【ゆうゆうLife】「介護できる」は幸せ?不幸?2010.8.26 13:49

7 福井市で160歳"生存" 高齢者不明問題100歳以上は963人  産経ニュース2010.8.27 03:12

8 職場定着の鍵は「介護は専門職」 宇短大・古川准教授が調査 下野新聞(8月23日 05:00)

9 時代の風:ひきこもりと所在不明高齢者=精神科医・斎藤環 ◇立ちはだかる家族の壁 毎日新聞 2010年8月29日 東京朝刊

10 高齢者不明:国の対策進まず 個人情報保護法などが壁 毎日新聞 2010年8月29日 

11 医療ナビ:アルツハイマーの新薬 服用方法や仕組みの異なる3種類が日本でも来年中...2010年8月31日 毎日新聞

12 社会保障「保護型」から「参加型」へ 厚労白書が提唱  Asahi.com 2010年8月29日

13 寂しい高齢者、多いのは23区―東京社会福祉士会の安心電話( 2010年09月01日 13:47
キャリアブレイン )

14  事務連絡  平成22年9月3日
各都道府県介護保険主管課(室)御中  地域包括支援センター等において地域の見守り活動等を構築していく際の支援を必要とする者に関する個人情報の取扱いについて (厚生労働省老健局振興課長)

15 「見守り活動」に限界  2010年09月03日 asahi.com

16 戸籍に現住所ない100歳以上は23万人…法務省調査(2010年9月10日 読売新聞)

17 23万人所在不明「戸籍制度は形式化」…識者指摘  yomiDr.(2010年9月10日 読売新聞)

18 2次予防廃止視野にパブコメ 地域支援事業で厚労省 背景に政官の思惑違いSilver.com  (2010/09/09)

19 究・求・救・Q:不明高齢者訪ねて… 廃屋の108歳女性宅 /岡山  毎日新聞9/8 ◇ポストに名前、郵便物

20 桑名市:65歳以上が「介護ボラ」 活動に応じ交付金--来月から制度開始 /三重 毎日新聞9/9地方版

21 高齢者同士の介護に換金ポイント 富士吉田市が新事業 asahi.com2010年9月9日

22 ユーチューブからニューヨークのEMS(Emergency Medical Service Provider) の啓発ビデオ

23  男性介護者の支援組織結成 岡山の江川さんら 19日に初交流会  山陽新聞 9/13

24  今年度の満100歳、2万3269人 厚労省、面会確認  asahi.com 2010年9月14日

25 老老介護世帯、5割に認知症・・・道、支援検討の方針 (2010年9月18日  読売新聞)

26 敬老祝い、手渡ししたいけど… 人手不足・プライバシー  asahi.com2010年9月19日

27 『お泊まりデイサービス』の現状(上) 独居、低所得、認知症あり 生活困難で宿泊続く 中日新聞  2010年9月23日

28 絆はなぜ切れた:高齢社会の家族/2 生活、老親の年金頼り 毎日新聞 2010年9月21日 東京朝刊

29  絆はなぜ切れた:高齢社会の家族/4 近所同士、合鍵持ち合い 毎日新聞 2010年9月23日 東京朝刊

30「所在不明問題 責任私らにも」「表彰状より施設整備を」… 100歳の主張 (1/2ページ) 2010.9.19 22:45   産経ニュース



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<エッセイ1>

「人生捨てたもんじゃない!」

岡野 美由紀(公務員)

9月18日・19日に安心づくり安全探しアプローチによる高齢者虐待防止研修に参加させて頂いた。たくさんの講義内容とワークが取り入れられた研修であった。ご本人や家族の強みに目をむけ、ともに考える。生活の中に存在するプラスの事実を、ご本人・家族から聞き出す。解決思考アプローチに基づいた実践的なアプローチ、安心づくり安全探しアプローチについて学ばせていただいた。この研修で一番最初に行われたワークについてご紹介させていただきたい。

「変な質問です。今日朝起きてから今までに人生捨てたもんじゃないと思えた出来事はありますか?」

その日の研修は10時開始。私は朝8時起床、5人家族の洗濯物を干し、朝ご飯を食べ、駅に向かい電車に乗って、会場に来た。その2時間ちょっとの間に、人生捨てたもんじゃないと思えるだろうか。なんて無茶な質問なのだろうかと思った。ワークなのでと、予定より遅く起床したがそれでも洗濯干し朝ご飯を食べて、研修に間に合ったことと、無理矢理に考えてみた。

このワークでは、要は
生活の中での「少しでも悪くないこと」(=例外)に注目をすること。気づいた「例外」を掘り下げていき、どうしてそんなことが起きたのか、どんなことがよかったのか。だれが支えてくれか。それには自分のどんなところが役だったのか。本人のお手柄として、本人に気づいてもらう。

私の場合は、朝の洗濯干しは習慣となっており、朝ご飯は多少用意されていたのは家族の支えで、平日は家族の起床時間に合わせて自分も早起きしていることを理解してくれていたのか。日常のこの習慣が強みになっていたのではと考えた。こんな些細な慌ただしい時間を、少しでも悪くない出来事とポジティブに考えるだけで、楽しく過ごせるのだということ。単純な私なので、このワーク後、自分の人生捨てたもんじゃないと思ったのである。

2日間の研修では、これ以外にもワークを行い、新たな気付きを得られ、学ばされることが多かった。研修で学んだことをどれだけ活用できるか分からないが、日々の日常の中で、本人と家族にも自分の強みを見つけてもらい「人生捨てたもんじゃない」と気づいてもらいたいと思えた研修であった。お困り事のある方の隣に寄り添って、ともに考えていけたらなと思うのである。

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<エッセイ2>

「施設入居者の傷ついた心と身体を最後まで守るのは誰か(1)」

小川孔美 (埼玉県立大学)

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で高齢者虐待があった。
つい先日、その施設の管理者の方からお話を伺う機会があった。

伺ったお話から、少しでも多くの方に伝えたいことが数多くあったので、この場を借りてお伝えしたい。だが、紙幅の関係上、ごくわずかなことしかお伝えできないことが残念である。今回をまず第一報としたい。

その日の朝、排泄介助のためトイレ誘導した際、入居者の方が興奮気味に職員に話しかけてきたという「鼻と耳を引っ張られた、頭を叩かれた」と。

その入居者の訴えは、夕方になって、訴えを聞いた職員から、統括ユニットリーダー(以下統括UL)に申し送られ、あらためて統括ULが入居者の訴えを聞き直すことで事実を確認し、その上で訴えが管理者に伝えられたという。

お話を伺っていて、入居者から訴えがあった「朝」から、管理者に事実が報告される「夕方」までの6~7時間にわたる「時間の空白」が気になった。その「時間」は、何に費やされていたのだろうか。

最初に訴えを受け止めた職員は、日頃から入居者に対して誠実であり、周囲の職員にも気を遣いすぎるほどの人物だという。彼はその時間の空白のなかで、何を考え、何を思っていたのか。―多くのことが考えられていたが、主に4つに集約されると思われた。

①「事実を上司に報告することは"つげ口"になってしまうがどうしよう」:報告する行為についての葛藤

②「(虐待していたかもしれない職員は)このことで仕事を辞めさせられてしまうのか、生活はどうなるのか、大丈夫なのか。他の仕事で食べていけるのか」仕事仲間への配慮、気遣い

③「自分が働いている施設で虐待が発覚したということになれば、他の入居者はどのように受け止めるであろう。施設を信頼して預けている家族はどのように考えるのか、この施設で働いている自分はどうなるのだろう」施設信用、対外関係性悪化への躊躇

④「(虐待していたかもしれない)職員が本当にやったかどうか確証がつかめていない(訴えた入居者は少し認知症があるので訴えが定かでない場合がある)」虐待訴えの信憑性 

およそ7時間もの間、訴えを受け止めた職員は、次の統括ULに報告するまで、誰にも相談できず、ひとりで事実を抱えこんでいた。だが、夕方の申し送り場面を利用し、試行錯誤の中、何よりも訴えた入居者のことを考え、事実を次のステップに進めた勇気に拍手を送りたい。そして、施設の管理者がこの事実について内部処理をせず、情報公開は義務であるとして開示に徹し、施設内の職員、施設全入居者とその家族、市内外各関係機関、各関係保険者、県に報告、謝罪し、さらに落ち着いた段階で、事業者連絡会にて報告を行い、問題、課題を共有した。

虐待事実を省みて、これからの施設運営、ケア体制に生かそうとする懸命な姿勢と、施設だけではどうにもならない課題が実は多く潜んでいることを、社会に知らせる必要があると考え、その行動に徹したこの施設の姿勢に心から敬意を表する。

「介護保険施設のセーフティネット(特別養護老人ホームの役割)に穴を開けてはならない。」管理者から聞くことができた大切な言葉である。あなたにも届くだろうか。
次の機会には、「施設を利用する家族の心」を中心にお伝えしたい。

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~ NEW 社会保障・社会福祉情報 ~

「長生き時代を生きるための社会と個人の覚悟-高齢者の所在不明問題を考える」

萩原清子 (関東学院大学)

1.所在不明高齢者の存在が相次いで見つかっている問題の背景

今年、100歳以上の高齢者は44,449人と過去最多を更新したと9月14日に厚生労働省は発表した。長寿を喜ぶべきだが、その裏側で今夏、高齢者の所在不明問題と年金不正受給問題が日本社会に大きな衝撃を与えた。

所在不明高齢者問題の背景には、日本福祉大学教授石川満によると①自治体が高齢者の実態を把握できない問題があり、②家族が死亡届を出さないとか、年金を不正に受給している問題がある。③として家を出てどこかで不明・死亡している可能性がある。①の問題としては、老人福祉法で市町村は「老人の福祉に関し、必要な情報の把握に努める」と実態把握の責務を明記しているものの、2000年の介護保険制度の導入で自治体の多くは福祉サービスを民間事業者など外部に任せている。介護保険によるケアマネジャーは介護保険による介護サービスを申請しない人にまで訪問することはない。90年代までは福祉事務所職員は高齢者宅を訪問し、健康状態や暮らしぶりなどを記した「個別援助台帳」を作成し、職員は必要な場合、立入調査をする権限をもっていた、という。

②と③の問題背景としては、「無縁社会」の現状と根底にある「貧困化」を指摘する論者は多い。「無縁社会」に関してはNHKがスペシャルとして本年1月に放送したところ大きな反響を呼んだ。身元が不明で引き取り手もない人は年間3万2000人にものぼり、また「生涯未婚」も増加し、「自分の家で亡くなっても、名前が分かっていても身元不明人」ということで処理される。いわゆる出稼ぎの人が故郷で親兄弟が亡くなると帰れなくなり、親族でも、つながりが薄いと引き取り拒否のケースも多い。これらの所在不明者は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」(明治32年3月28日法律93号、改正昭和61年12月26日法律109号)によって扱われる。

同法第1条によると「行旅死亡人」とは、「行旅中死亡し引取者なき者を言う。住所、居所もしくは氏名知れずかつ引取者なき死亡人は行旅死亡人と見なす」と定義され、現地主義によって取扱は市町村が行い、当該都道府県が費用の最終負担を行なうことを定めている。今日の「所在不明の高齢者」も「行旅死亡人」として取り扱われることになるが、明治時代に制定された当該「取扱法」で扱うことが適切なのかどうか。

現在の所在不明の人々を、行旅死亡人という呼び方をすることは「悲惨な実態を隠してしまうように思えてならない」という新聞投書者の意見に全く同感である。同時に、高齢者の所在不明問題と家族による年金不正受給問題の根底には「貧困」の広がりがあることは論を俟たない。年金不正受給のケースではなくとも、なぜ、白骨化した遺体が押入れや、移動のたびにリュックに入れられて持ち歩かれていたのか。なぜ、死亡届が提出されなかったのか。これらのことは、家族の愛情を汲んだ制度がなかったか、または有っても機能しなかったと考えられる。

2.「無縁社会」に生きる社会の対応

現代は家族や他者とのつながりが希薄になり、たとえ親族であっても連絡を取り合わないケースは多い。NHKの取材でも明らかになったように、所在不明者の多くが地縁や血縁など社会とのつながりを失ったまま「無縁化」している。そこで何よりも必要な対応は、このような時代の変化を直視した「セーフティーネット」の構築である。しかも、一人でも暮らして行ける社会保障の整備である。現行「行旅死亡人取扱法」では、「亡くなった人の遺体の引き取りで、窓口でたらいまわし」するような公的機関の押し付け合いの現状は避けられない。

もし、医療と住宅政策がしっかりしていれば、不安定な生活層や就労層でも、親の年金を不正受給しなくてよかったのではないか。医療と住宅が約束されていれば最低限のお金や低い年金でも生活できているのではないか。年金を含めた収入のほとんどが家賃に消えたり、医療にかかりたくても病院にも行けない現状の社会的仕組みが今日の所在者不明や年金不正受給問題の背景にある。「無縁社会」を直視した社会的・法的システムとしてのセーフティネットの構築が急がれる。

3.「無縁社会に」に生きる家族の対応:葬式の出し方

なぜ、死亡届が提出されないのだろうか。一般的には、自宅で死亡した場合、警察に連絡し検視が行なわれる。従来なら地域社会が死亡後の対応を手伝ってくれただろう。しかし、現在では孤独死であったり、家族や自分たちだけで死亡後の手続きや葬式の手配をしなくてはならない。在宅死亡の体験はだれでも一生に一度か二度であろうから、どのような手順でどのような手続きをし、いくらぐらいのお金が必要か、わからない人も多いだろう。最近、身内だけの小規模葬儀や直接火葬場に運び炉前で身内や友人が別れを告げるだけの「直葬」、「家族葬」が急増しているという。

背景には「貧困」があるという。葬式を「しない」のではなく、「できない」のだという。もちろん、葬儀は「自分らしく」という葬儀の考え方の変化がある。しかし、高齢者の所在不明問題や白骨化した遺体問題の背景には、「自宅に妻の遺体を放置した」77歳の夫が「役所の手続きが面倒くさくて自宅内で死亡した妻73歳の遺体をベランダに放置した」として逮捕されたケースがある(9/21)。

今後、たとえ家族と同居していても、あるいは別居子がいたとしても、どういう風に葬式を出していくか家族としても大きな課題である。1984年、映画監督の故伊丹十三が「お葬式」という映画で、初めてお葬式を出す家族の右往左往ぶりをコミカルに描いていた。しかし、四半世紀後の現在は、葬式すら出せなくなっている。

4.長生き時代に自分でできる死に向かう準備

高齢者の所在不明問題に関しては、何よりも社会のセーフティネットの構築が急務であることを述べた。他方、長生き時代を生きるために個人として準備しなければならない行動がある。それは死に向かう準備である。老後を迎えた多くの人が、「家族に迷惑をかけたくない」と思っている。が、実際に迷惑をかけない方法を思いつき、かつ、実践している人は必ずしも多くはないであろう。死に向かう準備の一つとして「遺言書」の作成、もう一つは「献体」制度の利用をあげてみたい。

死後残された家族間のトラブル防止のために「遺言書」を自分で書ける「遺言キット」が販売されている。他方、献体制度についてだが、献体とは、医学・歯学の大学における解剖学の教育・研究に役立たせるため、自分の遺体を無条件・無報酬で提供することである。「医学および歯学教育のための献体に関する法律」が昭和58年5月に国会で可決、成立し、同年11月25日より施行されている。

たとえ家族関係が良好だとしても、家族に「迷惑をかけたくない」という親世代は増加している。特別な資産・財産がなくとも自分ができる「迷惑をかけない死に向かう選択肢」の一つとして遺言書作成と献体制度の利用を提案した。かつて献体は、肉親の体を切り刻むという印象が強く、抵抗感を持つ家族も多かったと思われるが、近年のドナー登録や家族による臓器移植の承諾等により、献体に対する本人および家族の印象も変ってきているのではないだろうか。長寿が当たり前になった今日、自分らしい生き方の模索が始まっている。

〈参  考〉

Ⅰ 新政権による社会福祉施策の方向

● 政府は6月18日の閣議で日本経済の再生に向けた2020年度までの行動計画「新成長戦略」を決定し、医療・介護・健康関連産業を「成長牽引産業」に位置づけた。

● 新政権は産業構造を変えて「新しい福祉」をつくるために「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げ、「高福祉・高負担」を宣言した。

● 新政府は、6月29日、2014年度以降の導入を目指す新たな年金制度について制度の一元化や最低保障年金の導入、負担と給付関係の明確化、安定的財源の確保など制度の持続可能に必要な7つの基本原則を決めた。


Ⅱ 時代の変化と既存福祉施策のギャップ

● 厚労省は「特養ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する取りまとめ」を発表し、特養の介護職員にたん吸引を容認する方針を認めた(3/31)。
なお、これまで特養ホーム等で一定の条件下で認めていた介護職員によるたんの吸引等の一定の行為について、グループホーム、訪問介護事業所、障害者支援施設等でも行なえるようモデル事業を実施することを決めた(8/9)。

● 厚労省「地域包括ケア研究会」は団塊世代が75歳以上となる2025年に向けた介護改革を提言。そこでは在宅サービスを優先し、施設サービスはそれを補完するものと位置づけ、24時間巡回型訪問の導入、施設類型の再編による医療法人に特養ホームの設置を認めること、介護福祉士が基礎的な医療的ケアを担うことなどを求めた(4/26)。しかし、後日開かれた「社会保障審議会介護保険部会」(6/21)では、地域包括ケア研究会の報告書内容について、「自立支援」が強調されすぎていることへの委員からの懸念の声が上がった。報告書が「自助・互助」や「自立支援」を強調しているとの懸念から「公的介護保険から離れていこうとしている」「自立支援という考え方だけでは、現実から離れている」といった声が続出したという(「福祉新聞」6/28)。

● 「高齢者住まい法」の改正により高齢者専用賃貸住宅などの高齢者の入居を拒否しないために「高齢者円滑入居賃貸住宅」について新たな床面積や設備等の登録基準を設定(
5/19)。

● 生活保護制度の老齢加算廃止は違法の判決(6/14)。北九州市在住の74~92歳の男女39人が老齢加算の減額・廃止処分は違法として、市に処分取り消しを求めた訴訟について、福岡高裁は、合憲として棄却した一審判決を取り消し、原告の逆転勝訴とした。

● 介護施設等設置の参酌標準の撤廃方針。規制・制度改革に係る対処方針が閣議決定され、介護施設等の総量規制を後押ししている参酌標準の撤廃、特養の社会医療法人参入を可とする等の方針が示された(6/18)。

● 厚労省は「24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会」を設置し、在宅の高齢者が施設入所と同等の負担で同等の安心を得られるよう24時間体制の訪問看護・訪問介護の構築を目指す方策を明らかにした(6/18)。

● 地域支援事業実施要綱の一部が改正され、「特定高齢者」を「二次予防事業の対象者」に改め、介護予防ケアプランの作成の義務をなくすよう8/6より適用すると都道府県知事宛に通知した(8/6)。(Ⅱの一部は、東京都社会福祉協議会『福祉広報』各月「福祉のできごと」より引用・参照)